会社を退職した人は、健康保険の傷病手当金や、雇用保険の基本手当(=失業保険)・再就職手当を受給できることがあります。これらの手当は生活の大きな支えとなるので、できる限り退職する前から準備を整えましょう。
本記事では、健康保険の傷病手当金や雇用保険の基本手当・再就職手当を受給するために、退職前後で行うべきことをまとめて解説します。
健康保険の傷病手当金を受給するために行うべきこと
健康保険の傷病手当金は、業務とは関係がない病気やけがのために出勤できず、4日以上連続して欠勤した場合に受給できます。健康保険の傷病手当金を受給するために、退職前後で行うべきことを解説します。
【退職前に行うべきこと】
まずは、健康保険の傷病手当金を受給するため、在職中に行うべき準備のステップについてご紹介します。
以下が具体的な手順です。
医師からの労務不能意見の取得:医師の診察を受けて、病気やけがの影響により、仕事に就けない状態である旨の意見を取得する必要があります。
3日間の待期期間の経過:健康保険の傷病手当金は、休業4日目から支給されます。休業1日目から3日目までは「待期期間」といい、傷病手当金を申請するには待期期間の経過を待たなければなりません。
退職日に出勤や仕事をしない:退職日当日は出勤や仕事をせず、必ず休むようにしましょう。有給休暇を取得するのは構いません。退職日に仕事をしてしまうと、退職後の期間については傷病手当金を受給できなくなるので要注意です。
それぞれ詳しく説明していきます。
1. 医師からの労務不能意見の取得
①通院先の選定
症状に応じて適切な診療科を選びましょう。例えば、精神的な不調がある場合は、精神科や心療内科などが適しています。骨折の場合は整形外科、脳疾患の場合は脳神経内科、心臓疾患の場合は循環器内科など、症状に合わせた専門的な治療を受けられる診療科を選択します。
なお、整骨院や接骨院を運営しているのは医師ではないため、傷病手当金の申請に必要な意見を述べてもらうことができません。筋肉や骨に異常がある場合は、整形外科医の診察を受けましょう。
★ポイント1:前もって通院予約をしておこう。
コロナ・インフルエンザの影響もあり通院予約が取りづらい地域が増えています。速やかに傷病手当金を受給するため、通院予約をして早めに医師の診察を受けましょう。
②通院をする
医師の診察を受ける際には、
・ありのままの症状
・傷病手当金を申請したいこと
をお伝えしてください。医師から仕事に就けない状態である旨の意見(=労務不能意見)が得られた場合は、傷病手当金を申請できるようになります。
症状を説明する:医師に対して、自身の症状をありのままに伝えることが大切です。症状の具体的な状態や変化、日常生活に与える影響などを詳細に伝えることで、正確な診断を得ることができます。
傷病手当金の申請意向を伝える:医師の診断を受ける際に、傷病手当金を受給したい旨を伝えましょう。傷病手当金について知識のある医師であれば、申請に労務不能意見が必要であることを知っていますので、そこに焦点を当てた診察をしてもらえます。また、傷病手当金の申請時には、療養担当者(医師)に支給申請書の一部を記入してもらう必要があります。支給申請書の記入についても、医師に対して協力してもらえるように依頼しましょう。
③労務不能意見を得る
病気やけがの影響で仕事に就けない状態であると診断を受けた場合は、その旨の意見(=労務不能意見)を支給申請書に記入してもらいましょう。
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【診断書は必要ですか?どんな内容で書いてもらえばよいですか?】
健康保険の傷病手当金の申請に当たっては、医師の診断書は必要ありません。支給申請書の療養担当者記入用ページに、労務不能意見を記入してもらえば足ります。
ただし、会社を休む場合などには、医師の診断書の提出を求められることがあります。その場合は、病名や加療を要する期間、「休職を要する」「自宅療養を要する」などの記載がなされていれば十分と思われます。
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【次回の予約は必要ですか?】
労務不能意見を得ることができた場合でも、医師に通院をやめていいと言われるまでは、必ず次回の予約をとりましょう。病気やけがを完治させるには、医師の指示に従って通院を続けることが大切です。
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【医師に傷病手当金の申請に協力してもらえなかった場合は?】
医師の診断結果によっては、傷病手当金の支給申請書に労務不能意見を書いてもらえないケースがあります。その際は、別の医療機関を受診してセカンドオピニオンを求めましょう。
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【通院回数は?】
医師から通院をやめていいと言われるまでは、通院を続けるべきです。具体的な通院回数は症状の内容によって異なりますので、医師と相談しましょう。
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2. 3日間の待期期間の経過
傷病手当金は、連続して3日間休業した後の、4日目以降の休業日について支給されます。したがって、休業開始から連続した3日間(=待期期間)の経過を待たなければ、傷病手当金を申請することはできません。
なお、最初の3日間については連続して休業する必要がありますが、4日目以降の休業は連続していなくても構いません。例えば、病気になって通院するために3日間連続で欠勤し、その後一度は復職したものの、再び労務不能状態となって休職した場合は、4日目以降の休業日について傷病手当金を受給することができます。
この3連休には、土日祝(公休日)、有給休暇、代休、創業記念日、年末年始休暇、休職、休業、お盆休みなども含めることができます。例えば、ゴールデンウィークに5連休した場合も条件を満たします。
<注意事項-1.待期期間後もできる限り休養をとるべき>
3日間の待期期間が終わった後も、できる限り退職まで休養をとりましょう。休業した日については傷病手当金を受給できますし、心身の回復にも繋がります。
<注意事項-2.夜勤や深夜残業に関する出勤・休暇の取り扱い>
・休みの数え方においては、深夜シフトや夜遅い残業には特に気を付ける必要があります。例えば、12月20日に出勤して夜勤した後(退勤したのは21日)、21日・22日・23日と休暇を取得し、24日は出勤したとします。この場合、会社の記録上では21日が出勤、22日と23日のみが休暇とされ、連続3日以上の待期期間経過の要件を満たさない可能性があります。記録上いつ休んだことになるのかを確認し、計画的に3連休の日を作るよう心がけてください。
<注意事項-3.勤怠の自動記録に関する注意点>
システムによって自動的に勤怠が記録されるようになっている場合は注意が必要です。たとえ仕事をしていなくても、私物を取りに行くだけで勤怠記録が残り、出勤として扱われることがあります。このような状況にならないように、勤怠の記録方法について確認し、3連休を確保するよう努めましょう。
<注意事項-4.共済組合の健康保険に加入している場合>
私学共済や公立共済など、共済組合に加入している方は、傷病手当金の待期期間である3連休の初日が通常の出勤日である必要があります。2日目以降については、土日や祝日であっても問題ありません。
3. 退職日は出勤や仕事をしない
退職後も傷病手当金の継続給付を受けるためには、待期期間である連続3日間の休業に加えて、退職日にも休業していることが必要です。退職日には出勤や仕事をせず、有給休暇を取得するなどして自宅で待機しましょう。
出勤扱いされるリスクをゼロにするため、退職日に、挨拶や貸出物の返却などを行うことも避けるべきです。
会社にある荷物は、退職日の翌日以降に取りに行くか、郵送で送ってもらうようにしましょう。
ここまでが、健康保険の傷病手当金を受給するため、在職中に行うべき準備のステップです。とても重要な部分なので、必ず内容を理解するようにしてください。
【退職後に行うべきこと】
健康保険の傷病手当金を受給するため、退職後に行うべきことをご紹介します。
前提として、退職後にも引き続き傷病手当金を受給するには、退職日前に1年間継続して健康保険の被保険者であったことが必要です。
・定期通院をする
退職後も傷病手当金の継続給付を受け続けるためには、定期的な通院が欠かせません。医師が指示する頻度で、継続的に通院をしましょう。
特に指示がない場合は最低でも毎月1回は通院しておくようおすすめします。病状の経過や治療の効果を医師が確認でき、必要に応じて治療プランの調整が行えます。また、労務不能状態が継続していると医師が判断できるので、傷病手当金の継続給付の受給手続きもスムーズに行うことができます。
・傷病手当金の申請を行う
次に解説する手順に従って、傷病手当金の申請を行いましょう。
傷病手当金の申請手続き
傷病手当金の申請手続きを、順を追って解説します。
1.傷病手当金申請用紙を入手する
傷病手当金申請用紙は、在職時に加入していた健康保険の窓口で交付を受けるか、または健康保険のホームページ上からダウンロードします。電話をかけて依頼すれば、保険者が申請書の様式を郵送してくれることもあります。
協会けんぽの申請書はこちらからダウンロードできます。
⇒協会けんぽの申請書類
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g2/cat230/r124/
※支給申請書には、自分(被保険者)が記入する欄、会社(事業主)が記入する欄、および医師(療養担当者)が記入する欄があります。記入の順序は指定されていませんが、医師→会社→自身の順番で記入するのが一般的です。
まず、医師には自身の病気やけがの状態を詳細に伝え、支給申請書の療養担当者記入部分を書いてもらいます。その後、支給申請書を会社に提出します。会社には、勤務状況や給与の支給状況などを事業主記入部分に記入してもらいます。最後に、自身が被保険者記入部分に必要な情報を記入し、保険者へ提出することで傷病手当金の申請手続きが完了します。
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【申請用紙は何枚(何ヶ月分)必要ですか?】
保険者が用意している様式や、傷病手当金を申請する期間によって変わってきます。
加入している健康保険の種類によっては、1ヶ月区切りで申請書を作成しなければならないこともあります。その場合は、申請する月数と同じ通数の申請用紙が必要です。
これに対して、「全国健康保険組合(協会けんぽ)」の支給申請書のように、月をまたいで記載することができる場合もあります。
1ヶ月区切りなのか、それとも月またぎも認められるのかについては、支給申請書の様式を確認しましょう。
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2.医師に療養担当者記入部分を記載してもらう
通院をした際に医師に必要事項を記載してもらいます。手に入れた支給申請書の用紙を持っていき、診療担当者である医師に必要な項目を書いてもらいましょう。
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【医師に支給申請書を書いてもらうのはいつがいい?】
健康保険の傷病手当金は、休業日から2年が経過するまで請求できます。過去に遡って、まとめて請求することも可能です。
退職後すぐに傷病手当金を請求しても、休業日数がまだ少ない場合は、受給できる額も少なくなります。手続きの手間を考えると、少なくとも休業開始から1か月程度過ぎてから医師に支給申請書を書いてもらうのがよいでしょう。
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3.会社に事業主記入部分を記載してもらう(医師の記入後)
事業主記入部分には、申請期間中の出勤状況や給料の支払い状況を記入してもらいましょう。なお、退職日の翌日以降の期間については、事業主記入部分の記入は不要です。
すでに退職しているなら、支給申請書の用紙を郵送などで会社へ送りましょう。
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【医師が記入した用紙を会社に送る必要はある?】
医師が書いた用紙は、会社に送らなくて構いません。事業主の証明が必要な申請期間(=労務に服することができなかった期間)を会社に伝えれば足ります。
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【初回は会社を通じて申請してと言われた】
傷病手当金の申請手続きを、会社を介して行うように指示された場合は、その指示に従った方がスムーズです。この場合、医師が書いた書類と自身が記入した用紙を同封して会社へ送付しましょう。
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【会社に支給申請書への記入を拒否されたらどうする?】
会社は、従業員から傷病手当金の支給申請書への記入を求められた場合、正当な理由なく記入を拒むことはできません(健康保険法施行規則33条)。
傷病手当金の申請手続きによって、会社が損害を被ることはありません。何か質問された場合は、会社に損害賠償などを請求するものではない旨を伝えてください。
4.自身(被保険者)の記入欄を記載する
医師と会社に記入してもらったら、最後に被保険者記入部分へ自分で必要事項を記入しましょう。
「被保険者(申請者)情報」の欄には、健康保険証の記号・番号と、氏名・生年月日・郵便番号・住所を記入します。「振込先指定口座」の欄には、傷病手当金を振り込んでもらう口座の情報を記入します。
「申請内容」の欄には、仕事を休んだ期間、仕事の内容、傷病名、発病または負傷の年月日、傷病の原因、労災認定の有無、傷病が第三者の行為によるものか否かを記載します。傷病名は、医師が療養担当者記入欄に記載したものと同じ内容を記載しましょう。
「確認事項」欄には、傷病手当金の支給要件を満たしているかどうかを確認するための質問が記載されています。下記の注意事項を参照して、適切に回答しましょう。
最後に、記入した書類は写真を撮っておきましょう。
被保険者証の記号、番号は次回の申請でも必要となりますが、保険証は退職時に返してしまうため、わざわざ会社に確認するとなると手間がかかってしまいます。
また、申請していた期間を忘れてしまうこともあるため、郵送前には毎回写真を残しておくとよいでしょう。
5. 添付書類を準備する
傷病手当金の申請に当たっては、支給申請書のほか、本人確認書類などの添付書類が必要になります。保険者(協会けんぽなど)のウェブサイトを確認して、必要な添付書類を揃えておきましょう。
参考:健康保険傷病手当金支給申請書|全国健康保険協会(協会けんぽ)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g2/cat230/r124/
6. 申請書類を提出する
支給申請書への記入と添付書類の準備が終わりましたら、全ての申請書類をまとめて、在職中に加入していた健康保険の保険者に郵送します。
郵送先は、保険者のホームページなどで確認をしましょう。協会けんぽの場合の郵送先は下記のページから確認してください。
⇒協会けんぽの郵送先確認ページ
※退職日より後の期間に関する申請時には、事業主記入部分の記入は不要ですが、空欄で他のページと一緒に郵送するようにしてください。
※初回は会社を通じて申請するよう指示された場合は、申請書類を会社に提出してください。
7.決定通知書が届き、傷病手当金が振り込まれる
申請内容に不備がなければ、申請書類が保険者に到着してから約10営業日(2週間)後に、傷病手当金の支給決定がなされます。その後、決定通知書が申請者に郵送され、申請から約1か月後を目安に傷病手当金が支給されます。
その後は引き続き定期的な通院をしながら、翌月以降も1回目と同様の流れで傷病手当金の申請を行いましょう。
※退職日より後の期間に関する申請時には、事業主記入部分の記入は不要ですが、空欄で他のページと一緒に郵送するようにしてください。
支給申請書記入のポイント
傷病手当金の支給申請書に必要事項を記入する際のポイントを解説します。
1.療養担当者(医師)記入部分のポイント
療養担当者記入部分については、医師が記入した内容のうち、特に「労務不能と認めた期間」と「発症または負傷の原因」をチェックしましょう。
労務不能と認めた期間
労務不能と認めた期間については、その期間内に「連続3日間休んだ“待期期間”」「退職日以降の日付」の2つが含まれているかを必ず確認してください。
例を挙げると、
・受診日が12月15日
・退職日が12月31日
・記入依頼日が1月31日の場合
→医師が労務不能と認めた期間は、12月15日〜1月31日のようになります。
※12月15日〜12月30日に連続3日間休んだ待期期間が含まれていればOKです。
※1ヶ月ごとに分けて記載する必要がある組合では、月ごとに書いてもらいましょう。(1枚目:12月15日~12月31日、2枚目:1月1日~1月31日など)
申請時によく見られる間違いとして、注意が必要なのは、労務不能と認めた期間の初日が退職日以降になっている場合です。
例えば、12月31日に退職し、医師が労務不能と認めた期間が1月1日からとなっている場合などは、退職前の待期期間を含むように修正してもらう必要があります。
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<注意事項. 労務不能期間は医師が判断する>
労務不能と認めた期間がいつからいつまでであるかは、診察をした医師が判断します。患者が医師に対して労務不能期間を変更するようにお願いしても、医師に応じてもらえるとは限らない点にご注意ください。
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②発症または負傷の原因
発症または負傷の原因については、会社の業務や通勤とは関係のない事由が記載されている必要があります。傷病手当金の支給対象となるのは、仕事中以外(業務外)で生じた傷病に限られているためです。
例えば「仕事のストレス」や「職場での事故」などと記載されていると、傷病手当金の支給対象外となる可能性が高いです。その場合は傷病手当金ではなく、労働基準監督署に対して労災保険給付を請求しましょう。
2.事業主(会社)記入部分のポイント
事業主記入部分には、申請期間(=労務不能と認めた期間)に関する「勤務状況」や「給料の支給状況」を会社に明記してもらいます。
ただし、退職日より後の期間については、上記の事項について事業主の証明は必要ありません。会社には、申請期間のうち退職日以前の期間について、勤務状況や給料の支給状況を記載してもらいましょう。
もし会社が書き方が分からないと言ってきた場合は、「保険者(協会けんぽなど)に電話すれば、具体的なアドバイスをしてくれます。」と伝えてください。
※退職日より後の期間に関する申請時には、事業主記入部分の記入は不要ですが、空欄で他のページと一緒に郵送するようにしてください。
3.被保険者(自分)記入部分のポイント
被保険者記入部分へ記入する際には、医師や会社の記入内容との間で矛盾がないかを確認することが重要です。例えば、医師がうつ病と診断しているにも関わらず、自身が適応障害と記載している場合などが挙げられます。このような矛盾がないかどうか、注意深く確認してください。
保険証の記号・番号を記入する欄には、「在職中の」保険証の番号を記載することが必要です。新しい保険証や任意継続した保険証の記号・番号ではなく、「在職中の」ものを記入してください。
そのほか、「申請内容」や「確認事項」の欄には、傷病手当金の支給要件を踏まえて適切に記載する必要があります。特に、以下の注意事項にご留意ください。
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<注意事項-1.「傷病の原因」欄に記入する際の注意点>
傷病手当金の支給対象となるのは、仕事中以外(業務外)で生じた傷病に限られます。「申請内容」欄の「傷病の原因」について、「仕事中(業務上)での傷病」または「通勤途中での傷病」を選択すると、傷病手当金が支給されないのでご注意ください。
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<注意事項-2.「確認事項」欄に記入する際の注意点>
(a)申請期間において給与(報酬)を受けていると、傷病手当金が減額または不支給となります。「申請期間(療養のために休んだ期間)に報酬を受けましたか」との質問には、全く給与を受けていない場合は「いいえ」と記入しましょう。給与の一部を受けていた場合には、会社が記入した内容をよく確認した上で「はい」と記入しましょう。
(b)申請期間について、別の傷病により労災保険の休業補償給付を受給している場合は、傷病手当金が支給されない点にご留意ください。
これだけは守って。傷病手当金受給期間中の注意事項
傷病手当金の受給期間中には、月1回程度の定期通院をすること、および仕事は原則としてできないことに注意しましょう。
1.月1回程度の定期通院は必ず行ってください。
医師の指示を無視して診察に行かなかったり、処方された薬をうっかりもらい忘れたりしないようにご注意ください。傷病が悪化するおそれがある上に、傷病手当金の申請ができなくなるおそれがあります。
特に、退職直後の初回通院日は、新しい保険証が発行される前になるかもしれません。この時、「保険証がない」という理由で通院を無断キャンセルしてはなりません。
保険証が発行されるタイミングに合わせて、あらかじめ通院日を変更してもらうか、還付制度を利用しましょう。還付制度は、保険証がない間に医療費を10割負担で支払いつつ、後で申請すれば自己負担額を超える部分が還付される仕組みです。還付制度については、病院の窓口で詳細を確認してみましょう。
2.お仕事は原則できません
傷病手当金の受給期間中に、アルバイトなどの仕事や通学、一日を費やすボランティアなどの活動をすると、傷病手当金が減額または支給停止になる可能性があります。
ただし、特別な事情や状況によっては、どうしてもこれらの活動が必要な場合もあります。その際には、保険者(協会けんぽなど)や担当医と十分に相談しましょう。
なお、就労を行わずに得られる収入であれば問題ありません。例えば株式の配当金や、不動産の賃料収入などです。これらの所得を得ても、保険者に申告する必要はありません(税務署に対する確定申告は必要になるケースもあるため、税理士等に相談してください。)。
以上が、傷病手当金に関する内容です。傷病手当金の支給要件や支給開始後の注意点を理解し、医師などと協力して円滑に手続きを進めるようにしましょう。
【退職後、傷病手当金の申請と一緒に行っておくとよい事】
傷病手当金の申請には直接影響しませんが、次の手続きにも目を向けておきましょう。
① 健康保険の切り替え(国民健康保険/任意継続)
退職によって無職になる場合は、市区町村の国民健康保険へ加入するか、または在職中の健康保険を任意継続するかの選択肢があります。
任意継続の期限は最長2年間で、資格喪失日(=退職日)の翌日から20日以内に手続きを行わなければなりません。保険者(協会けんぽなど)に問い合わせましょう。
② 国民年金保険料の免除・猶予申請(対象者のみ)
退職によって所得が大幅に減り、国民年金保険料を納めることが難しい場合は、市区町村役場か年金事務所で申請すれば、納付を免除または猶予してもらえることがあります。
国民年金保険料の免除・猶予は、20歳以上50歳未満の方が対象です。該当する可能性がある方は、市区町村役場か年金事務所に相談してみましょう。
失業保険(雇用保険の基本手当)を受給するために行うべきこと
雇用保険の基本手当は、失業して就職活動をしている人が受給できます。傷病手当金との併給は認められていませんが、労務不能状態から回復した後も失業状態が続く場合は、雇用保険の基本手当の受給を申請しましょう。
退職後に健康保険の傷病手当金を受給する場合は、あらかじめハローワークへ基本手当の受給期間延長申請を行い、労務不能状態からの回復を待って基本手当の受給を申請します。
傷病手当金の受給後に、失業保険を申請する手順
健康保険の傷病手当金を受給した後に、雇用保険の基本手当を申請する手続きを、順を追って解説します。
1.ハローワークへ受給期間延長申請書を提出する(退職の翌日から31日目以降早めに)
傷病手当金の受給中は、雇用保険の基本手当を受けることができません。しかし、ハローワークに対して受給期間延長申請を行えば、労務不能期間を基本手当の受給期間に加算することができます。
傷病手当金を受給した後、労務不能状態からの回復を待って雇用保険の基本手当を申請する場合は、あらかじめハローワークへ受給期間延長申請書を提出しましょう。手続きの仕方が分からない場合は、ハローワークの職員に質問すれば教えてもらえます。
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【延長申請の際に必要な持ち物は?】
受給期間延長申請書、離職票-2、雇用保険受給資格者証、および延長理由を証明する書類が必要です。
受給期間延長申請書の様式は、ハローワークに備え付けてあります。延長理由を証明する書類としては、傷病手当金の支給申請書の写しや、医師の診断書などを提出します。どのような書類が必要になるか、事前に電話などでハローワークに確認しておくことをお勧めします。
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【なんで退職の翌日から31日目以降なの?すぐじゃダメ?】
基本手当の受給期間延長申請の期間は、退職日の翌日から30日が経過した後(=31日目以降)と法令によって決まっています。
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【受給期間の延長は、傷病手当金の審査結果が出る前でも申請できる?】
傷病手当金の審査結果がまだ出ていなくても、雇用保険の基本手当の受給期間延長申請はできます。
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【雇用保険の基本手当に関して、傷病手当金の受給中や終了後にやることは?】
傷病手当金を受給中(または申請中)の間は、失業保険に関しては延長申請のみ行えば足ります。労務不能状態から回復して、傷病手当金の支給が停止した段階で、次の項目から解説する手順に従って雇用保険の基本手当を申請しましょう。
2.医師に「就労可能証明書」を書いてもらう(傷病手当金の受給期間終了後)
受給期間の延長後に雇用保険の基本手当を申請する際には、ハローワークへ「就労可能証明書」を提出する必要があります。
※地域により若干書類名がことなることがあります。就労可能証明書は、ハローワークの様式に従って医師が作成します。ハローワークで就労可能証明書の用紙をあらかじめもらっておき、医師の診察を受けた際に記入してもらいましょう。
ただし、医師がまだ就職活動が可能なほど回復していないと判断した場合は、就労可能証明書を書いてもらえないことがあります。就労可能の診断を受けるタイミングについては、治療を受ける中で医師とよく相談しましょう。
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【就労可能証明書は、傷病手当金の最後の申請書と、一緒に書いてもらっていい?】
問題ありません。
たとえば、4月1日付で就労可能になった旨の診断を受けた場合、3月31日までの傷病手当金の申請書と、4月1日付の就労可能証明書を同じタイミングで書いてもらいましょう。
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<注意事項-1.傷病を理由に退職した場合は、基本手当の支給が手厚くなる>
傷病を理由に退職した場合は、自己都合退職であっても「特定理由離職者」として雇用保険の基本手当を申請できます。
通常の自己都合退職者は、申請から2か月と7日が経過しなければ基本手当を受給できません。これに対して特定理由離職者は、申請から7日が経過すれば基本手当を受給できます。また、基本手当の支給日数も、通常の自己都合退職者に比べて長くなることがあります。
特定理由離職者として雇用保険の基本手当を申請する場合は、就労可能証明書の記載内容が重要になります。退職時において就労が困難であったことなどを、就労可能証明書に明記してもらいましょう。
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<注意事項-2.就職困難者に該当する場合は、基本手当の支給が手厚くなる>
身体障害者・知的障害者・精神障害者などの就職困難者と認められれば、雇用保険の基本手当の支給期間が長くなることがあります。
就職困難者認定を受けるためには、原則として障害者手帳の交付を受けていることが必要です。しかし、うつ病、てんかん、統合失調症などの深刻な症状が見られる場合は、医師の診断書等によって就職困難者認定を受けられることがあります。就労可能証明書の記載をお願いする際に、就職困難者認定について医師に相談してみましょう。
3.雇用保険の基本手当の申請書類を揃える
雇用保険の基本手当を申請する際には、以下の書類等が必要になりますので、できる限り速やかに申請書類を揃えましょう。
■医師に作成してもらう書類
・就労可能証明書
※傷病による受給期間の延長後に申請する際に必要
■会社から交付を受ける書類
・離職票(1と2)
■自分で揃える書類等
・写真2枚(縦3cm×横2.4cm)
※マイナンバーカードを提示する場合は省略可
・普通預金口座の通帳(キャッシュカードでも可能)
※一部のネット銀行は不可とされているので、都市銀行の通帳等を持参するとよいでしょう。
・印鑑
※実印である必要はありません。
・本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)
・個人番号確認書類(マイナンバーカード、マイナンバー通知カード、個人番号記載の住民票)
※マイナンバーカードであれば、本人確認と個人番号確認が1枚で可能
4.ハローワークで基本手当の受給申請を行う
申請書類が揃ったら、ハローワークへ持参して雇用保険の基本手当の受給を申請しましょう。
申請に当たっては見落としがないように、「私は特定理由離職者に該当しますか」「就職困難者認定を受ける資格がありますか」などと、気になるポイントを職員に確認しましょう。
5.受給開始後は就職活動を行い、ハローワークで失業認定を受ける(4週間ごとに1回)
雇用保険の基本手当を受給している方は、受給開始後も就職活動を続け、4週間ごとに1回、ハローワークの窓口で失業の認定を受ける必要があります。
原則として、週20時間以上働く仕事に就く場合は「就職」となります。就職が決まった場合は、就職日(入社日)の前日にその旨をハローワークの窓口へ届け出ましょう。
その後は、失業保険の支給条件を満たすために必要な活動に取り組みます。
なお、早い段階で再就職が確定した場合には、再就職手当を受給できる可能性があります。
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【再就職手当って何?】
再就職手当は、雇用保険の基本手当の受給資格を得た後に、所定の給付日数の3分の1以上が残っている状態で再就職や起業などを達成した場合に、一定の要件を満たせば受給できます。
再就職手当の受給資格が認められると、新しい仕事が始まった後に、残りの基本手当の給付日数に対して60%または70%に相当する金額を一括で受け取ることができます。
給付日数が3分の2以上残っていれば70%
給付日数が3分の1以上残っていれば60%支給されます。
ただし、再就職手当はどの仕事に就いた場合でも支給されるものではありません。残りの給付日数の要件以外に、以下の要件などを満たす必要があります。
・再就職先と前職との間に密接な関わり合いがないこと
・1年を超えて勤務することが確実であること
・過去3年以内の就職について、再就職手当などの支給を受けたことがないこと
・受給資格決定前から、再就職先への採用が内定していたわけではないこと
など
再就職手当の申請について分からないことがある場合は、ハローワークの担当者と事前に十分な相談をしてください。
この記事の監修者

【プロフィール】
阿部 由羅(あべ ゆら)
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。